~あいにいく~第9回【 2 / 3 】

島根県  臨時職員 石原知美【2】

    島根県 臨時職員
    石原知美【2】





 彼女を語る上で、決してスルーできないトピックがある。「劇団ハタチ族」。あの日、亀尾先生の市民劇に参加していた米子の若き演劇人が、雲南市に引っ越してきて旗揚げした劇団だ。美味しいタコライスに満たされながら、そのへんの話を掘り始めてみる。


「最初は、すっごく斜に構えてました。京都で個性的な表現者たちを見てきたばかりだったから、ハタチ族のお芝居に対しても辛口なことを思ったり言ったりしていて。西藤さんに制作に誘われた時は『……ちょっとめんどくさそうだけど、ま、いっかー』くらいの軽いノリでしたね(笑)」


 でも私ははっきりと覚えている。2014年末、あの決起座談会でちみちゃんは、すでにプロデューサーだった。西藤に対しても対等に意見をぶつけて、ああちみちゃんはここで揉まれて大人になっていくのだと、ちょっとじーんと来たんである。


「本腰が入ったのは、西藤さんと『365日公演』のためのクラウドファンディングの作戦を練っていた時。話しているうちに、西藤さんが何を考えているかがわかった気がしたんですね。『地方でも演劇をやっていく覚悟とエネルギーを証明したい』とか『自分たちにだってできるんだぞってことを証明したい』とか『それを地元の高校生たちにも感じてもらいたい』とか。そのことに、すっげーー、燃えてきて」


 ちみちゃんが「すっげーー」って言う時は、本当の本当にすごかった時だ。


「クラウドファンディングって、いただいたご支援が目に見えるんですよね。応援メッセージも添えられていて、『こんなに応援してくださる人がいる!』『こんなに見守ってくれてる人がいる!』って。実際、幕を開けてからも、お客さんが来てくださることがうれしくてしょうがないんですよ。みんなも死に物狂いだったし。『みんな、舞台の上でちゃんと生きてる!!』って思って、燃えちゃったんです」


 でもどっかで、私の気持ちが強くなりすぎちゃったんですよね。ちみちゃんが飲み物に手を伸ばしながら言う。


「ハタチ族にはこうあってほしい、こうしてほしい!っていう思いが、強くなりすぎちゃったんです。西藤さんが苦手なことを、私が強いてしまったり。私は西藤さんを苦しめている。そう思ったら、もう何も言えなくなっちゃって」


 ちみちゃんは、ハタチ族をどうしたかったの? そう訪ねて返ってきた声は、ほんのちょっとだけ、震えていた。

「365日公演が終わると、次にやることが怖いんです。365日大千穐楽に来てくださった500人を超えるお客さんを、引き止めるにはどうしたらいいのかと。雲南にとどまるには、このムーブメントを続けていかなきゃいけない。私は、もっと地域と深くつながるべきなんじゃないかと思ったんですね。『365日公演、知ってたけどいつの間にか終わってた』とか『すごいなーとは思ってたよ』っていまだに言われるから」


 だからちみちゃんは、ある深い理解者から持ちかけられた、「三江線」という電車の中での芝居公演に踏み切った。


「西藤さんは、一俳優さんなんです。365日の期間中は反省する時間がなくて、もっと丁寧に芝居をやりたいっていう思いがきっと募っていたと思うんですね。でも、ハタチ族のお客さんが求めてるのは『良質な芝居が観たい』というより『ハタチ族を応援したい』なんだと私は思っていたから、みんなの気持ちを背負わせすぎたように思うんです。西藤さんがしたくないこと、苦手なことを、やらせようとしてしまった」


 そうつぶやいたあたりで、ちみちゃんの涙腺が限界を迎えた。いつもそうだ。ハタチ族の話にさしかかると、涙の堤防が決壊する。これっていったい、何の涙なんだろうね。


「悔しさですね」


 震える声で、でも即答が返ってくる。何への悔しさ?


「もっと認めてもらいたい。プロの劇団として認めてもらいたい。認めてくれている人はもちろんいるし、応援してくれている人もいるけど、でもやっぱり聞こえてくるのは『何やってんだあれ』『芝居で生活なんかできるわけがない』みたいな声だから。そこが悔しい」


 ぽろぽろ涙をこぼしながら、言葉もとめどなくあふれてくる。


「ハタチ族の制作をすることは、私にとって『表現』だったんです。ハタチ族を皆さんに知っていただく、っていう『表現』。ハタチ族サイドのみんなからしたら、えらい迷惑な話だと思うんですけど(笑)。でもゆずれないところはゆずれなかったし、こだわったし。『今、これ、こだわり時だと思うんです!』『いや、スピードだろスピード!』みたいなことが、あったりしたし。ステージママみたいな感じが強くなってしまって、ハタチ族の自由を私が奪っている、っていう気持ちになってきて」


 そこでたどり着いたのが、「みんたくAda-n(アダーン)」という居場所だった。職業も出自も違う仲間たちが、古い家をリノベーションして、古本を集めて図書館風にしたり、美味しいパスタを研究したり、それぞれがそれぞれの強みを持ち寄って遊ぶ、ゆるやかな集団。フラットで居られる場所。


「去年の春に、ハタチ族の営業で行ったんですよ。西藤さんに、演劇以外の仲間ができたらいいなという超おせっかいのもと(笑)。でも行ってみたら、私の方がハマっちゃったという(笑)」


 びっくりすることに、その後、ちみちゃんはトークイベントを行っている。壇上で、1人で、自分を形成するものたちについて、切々と語るひととき。


「お客さんはみんな、ハタチ族のお客さんでした。石原知美という人間を、365日間、支えて励まし続けてくれた皆さん。西藤さんも来てくれたんですよ。私の話を、聞いていってくれましたね」

 だから、今のちみちゃんはこんなふうに思っているのだ。


「私自身のステップアップ。スキルアップも。人脈とか、キャリアとか、もろもろ。もしハタチ族が『仕事がない』って困っているなら、私が仕事を作れる人になりたいんです」


 ちなみに、私はこれからちみちゃんに、演劇とはまるで関係のないワークショップに連れていかれることになっている。


「演劇やハタチ族を知らない人がいる。だったら直接その人に会って、『演劇に興味ありませんか?私の一押しの劇団があるんです!』っていう紹介の仕方をしたい。島根には、こんなプロの役者がいるんです!って」


 また声が震えてるけど、いいよ。そのまま続けて。


「もっと大きく、上からものを言うと、『プロデューサーです!』って胸を張って言えるようになりたい。今の私には、ハタチ族やクリエイターの人達と一緒に、対等にお仕事ができるような力はないけど、いつかそういう仕事がしたい。」


 石原知美は、「表現欲」でできている。愛するものを「愛してる」と言いたい。「私の愛してる人(もの)たちです!」って高らかに言いたい。そうなるためのたくさんの一歩を、ちみちゃんは今、あちこちに踏み出しているのだ。

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